働き方・働く場の研究と視点

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行きたくなるオフィス

2021.11.10
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ワーカーがわざわざオフィスに行って働こうと思うのは
どんな条件が揃っているからでしょうか。
行きたくなるオフィスについて見てみましょう。
POINT:
・今後もオフィスで働きたいというワーカーは半数以上
・同僚に会えることもオフィスに行きたくなる理由のひとつ
・オフィスに行きたくなることは、特に組織への愛着に効果がある


仕事をするために
「行きたくなる」のはどこなのか

コロナ禍をきっかけに、自宅やシェアオフィスといった、オフィス以外の場所からのリモートワークが定着し、以前よりもワーカーが働く場所を自由に選択できるようになりました。そんな状況の中、ワーカーは「オフィス」というものをどのようにとらえているのでしょうか。

まずは、ワーカーが今後もオフィスで働きたいと考えているのかを調べるため、3,000名のワーカーを対象に「コロナ禍後に働きたいと思う場所」について尋ねました。その結果、コロナ禍後に働きたい場所として「オフィス」、「自宅」、「シェアオフィス」の順に回答者の割合が多い結果となりました(図1)。リモートワークが浸透しても、オフィスで働きたいと思っているワーカーが半数以上いるようです。
しかし、オフィスでもリモートでも働ける状況において、わざわざオフィスに出社する動機は何なのでしょうか。ワーカーが主体的に働く場所を選択するようになったいま、ワーカーが「オフィスに行きたい」と感じるとき、オフィスに何を求めているのかを把握し、その期待に応えるオフィス環境や設備を用意しておく必要がありそうです。


仕事をすること以外で
オフィスに行きたいと思う理由は?

上の調査結果から、今後もオフィスで働きたいと考えている人が半数以上いることがわかりました。ここで、オフィスの必要性についてさらに掘り下げて考えてみたいと思います。
オフィスに集まって働く意義としてまずあげられるのは"効率よく仕事をすること"ですが、それ以外にもオフィスに行く意義があるはずです。

そこで、2020年8月に実施したアンケートで「仕事をすること以外でオフィスに行きたくなる理由」を聞いてみました。その結果、「仲の良いメンバーに会える」と回答した人が約6割いました(図2)。オフィスにワーカーが集まる要因は、仕事をすること以外には、食事の提供やイベントなどの福利厚生や教育面の目的があり、それ以上に、オフィスに会いたい人がいることが大きな理由になっていることがわかります。
それでは次に、仕事に直接関係する・しないにかかわらず、職場のメンバーとどのような活動ができるとワーカーはオフィスに行きたいと思うのか、具体的な理由を見ていきましょう。


ワーカーが、
オフィスに行く目的は何か?

オフィスで行われる23の活動を設定し、その活動ごとにオフィスに「行きたい」かどうかをオフィスワーカー515名を対象に問いました。その結果をもとに因子分析をすると、オフィスに行きたいと思う活動から「相談・協働に関する活動」、「個人利用に関する活動」の二つの因子が抽出されました(図3)。
「相談・協働に関する活動」に分類された質問項目を見てみると「深い議論が必要な会議や相談」や「重要な会議や相談」でした。込み入った話をするなど直接表情を見て会話をしたい時には、オフィスに行きたいと感じることがあるようです。
一方で「個人利用に関する活動」に分類された質問項目を見てみると、「個人作業」や「単純作業」でした。これはオフィスで一人の時間を持ちたいという要望があるためだと読み取れます。
ワーカーは、仕事の中で行う活動を他者と関わりがある「相談・協働」と「個人利用」の2種類でとらえていることが改めてわかりました。


「オフィスに行きたい」ことが
ワーカーの意識や行動に与えるもの

「相談・協働に関する活動」、「個人利用に関する活動」の二つのグルーピング(因子)を使って、「オフィスに行きたい」と思うことが、ワーカーの意識や行動にどのように影響するのかを分析していきます。
組織における人の心理・行動に関する既往研究では、パフォーマンスや主体性、健全な組織生活と関わる複数の重要な特徴があると言われています。

そこで今回の分析では、ワーカーの意識面の特徴として「ワーク・エンゲイジメント*」「組織への愛着」「組織アイデンティティ」、行動面の特徴として「主観的パフォーマンス」「支援行動」を取り上げて、ワーカーが「相談・協働に関する活動でオフィスに行きたい」「個人利用に関する活動でオフィスに行きたい」と思うこととどのような相関関係があるのかを見ていきました。
*出典:職場のポジティブメンタルヘルス/島津明人/2015年


オフィスに行くことによって
得られる効果

「相談・協働に関する活動」のためにオフィスに行きたいと思う人ほど主観的パフォーマンスが高く、さらに、同僚を助けるなどの支援行動をしていることがわかりました。一方、「個人利用」を目的としている人ほど、ワーク・エンゲイジメントが高いことがわかりました。「個人利用」で行きたさを感じると、仕事への充足感が向上する可能性があります(図5)。
また、組織への愛着は「相談・協働」「個人利用」のどちらとも、組織アイデンティティは「個人利用」と関係しています。これは、組織との心理的な結びつきが強くなるということであり、オフィスを利用する役割の一つととらえることもできるでしょう。
それでは、ワーカーが出社したくなるオフィス環境には、何が必要なのでしょうか。ワーカーがオフィスに行きたいと思う要因についてさらに調べました。


オフィスの役割を
明確にすることが大事

近年、柔軟な働き方を実現するための方法の一つとして、ABW*に注目が集まっています。ABW環境が充実しているかを「スペースの種類が多いほど充実している」と仮定して、行きたさとの関係を調べたところ、協働できるABW環境が充実していると、「相談・協働に関する活動」の理由で「行きたい」と感じ、一方で、個人利用や多目的に使用できるABW 環境が充実していると、「個人利用に関する活動」の理由で「行きたい」と感じることがわかりました(図6)。
注目すべきは、行きたいという感情との関係がマイナスになっている点です。集団環境を充実させても、個人利用の活動での行きたさにはマイナスの効果になります。個人・多目的なABW環境の充実と相談・協働に関する活動での行きたさも同様です。オフィスは、ワーカーの望む環境を把握して設えるとよいでしょう。
*ABW(Activity Based Working)
仕事の内容や目的に合わせて、オフィスの内外を問わず働く場所を選択する働き方。


「行きたくなるオフィス」のまとめ

コロナ禍を経験しても、今後もオフィスで働きたいというワーカーは半数以上にのぼります。仕事をすることはもちろん、同僚に会えることもオフィスに行きたくなる理由のようです。
リモートでも働けるようになった現在は、オフィスに行くべきかという議論もありますが、本研究ではオフィスに「行きたくなる」ことがワーカーの意識にも行動にも効果があることがわかりました。特に組織への愛着については効果がありそうです。
さらに、ワーカーがオフィスに行きたいと思うためには、ワーカーの感情と異なる環境を設えてしまうと逆効果になります。オフィスは、組織のありたい姿に合わせて「何をするための場所なのか」を考えて計画をしていきましょう。

Research: 森田舞、嶺野あゆみ、池田晃一(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 米村知倫
Production: Plus81 inc.